リンパ浮腫治療の基本

 
リンパドレナージュとは?


当治療院で行っているのは、リンパ浮腫の治療法の一つで複合的理学療法と言われているものです。
○リンパドレナージュと言われているリンパマッサージ
○テープ(バンテージ)や圧迫ストッキング・スリーブを用いた圧迫療法
○圧迫しながらの運動法
○スキンケア・生活管理を含めた健康管理
を中心に、浮腫(むくみ)の軽減を目指すものです。
概要は以下をお読みください。
 
◎ リンパドレナージュ(リンパマッサージ法)とは?
 Vodder式リンパドレナージュ<Manuelle Lymphdrainage ad modum Vodder> (徒手リンパ排液法・用手的リンパ排液法・リンパドレナージ・Manuelle Lymphdrainage・Manual Lymph drainage)はデンマークの人Phil Emil Vodderにより考案されたマッサージの一種です。間質に集積された液体を除去することを目的とし、リンパ管系と液体を誘導する間質組織に作用するマッサージ方法です。1932年にVodderは理学療法士としてフランスで働いていた当時、リンパ性疾患の患者を治療した際にこれを着想し発展させ、1936年パリの「美と健康展」で公表しました。特徴は数秒単位のリズムで、排液方向へ、回旋性の動きで、広い面を用いて、皮膚をこするのではなく、軽い圧を加えた後に軽減するという方法で、従来の一般的なスウェーデン式マッサージとは手技を異にしています。また直接皮膚面に働きかけるので、オイルやクリームといった滑材を用いないのも、ヨーロッパにおけるクラッシックなマッサージとは異なります。
皮膚面での摩擦による強度の充血を起こすことを避け、リンパ管系によって排液しなければならない物質、いわゆる「リンパ負荷」を増やさずにリンパの排液を促進すことを目的にしています。Vodderはドイツ人医師Asdonkと共にリンパ浮腫への応用と手技の啓蒙を進め、オーストリアのWittlingerとも手技のコースを開設しました。
 Vodder式リンパドレナージュを含む複合理学療法は、ドイツでは1973年に公的機関から適用が認められ、1985年理学療法協会は多少混乱のあった状況を一つの枠組にまとめました。更にスイスのチューリッヒ大学のKubik教授やドイツのFöldi教授などによるリンパの研究の発展する中、ドレナージュを中心としたこの療法は各国へと伝えられ、広く普及しています。
ここで行っているリンパマッサージはこの方法を用いています。  


むくみとは?


◎ 浮腫(むくみ)とは
 浮腫とは、組織の間にある間質液(体内の水分)が排出されずに鬱滞(うったい)したままでいる状態ですので、まだリンパ液とは呼べません。鬱滞した間質液がリンパ管盲端(もうたん)というリンパ管の最初の入口からリンパ管内に取り込まれた時に、初めてリンパ液と呼ばれるものとなります。つまりリンパ管に取り込まれる前は同じものであってもリンパ液とは呼べないのです。ですから、むくみはリンパが溜まっているからという言い方をされることが多いのですが正確ではありません。間質液とリンパ液の内容に違いがないのに名称が変化していることが、浮腫=リンパと考える混乱した用語の使い方になっているように思います。また、鬱滞を起こす原因は様々ですので、単純にむくみはリンパがとどこおっているからという言い方は間違っているのです。新陳代謝の再吸収との関係やリンパ管の活動低下などの原因を考えて、適切な治療を見極める必要があります。通常、動脈で運ばれて来た血液量を100%とすると、静脈で再吸収されるものが90%で、残りの10%がリンパ管に取り込まれて再吸収され(つまりリンパ液)、心臓へ戻され血液として循環すると言われていて、血液循環量が増えると当然にリンパ液量も増加します。リンパ管を経由した排液が行われにくい浮腫の状態で、排液しなければならない液体を増やしては、結局リンパ管への負担を増加させることになります。ですので、極端な充血を生じる(つまり血液循環量が増える)治療は控える事が必要です。 


リンパマッサージの考え方 

◎ リンパマッサージ法の考え方
リンパ管がむくみを減量させる様子は掃除機でイメージすることも出来ます。掃除機は吸い取ったゴミを溜めておくゴミパックが一杯では吸引力が落ちてきます。吸引力を回復させるために、①パックに溜まったゴミを処理(捨てる)します。もし、②吸い込むホースの途中にゴミが詰まっていたら、それも処理します。すると吸引力が増加し、③ゴミを多く吸い込むことが出来るようになります。このゴミに例えたものが間質液(リンパ液)です。リンパ排液法を行う時に先ず流れ込む先のリンパ管やリンパ節をマッサージするのは、ゴミパックに溜まったゴミを処理するという意味なのです。リンパ液の排出を増加させるリンパドレナージュを行ってはいけない場合もあるので注意する必要があります。この方法は「リンパ浮腫」というリンパ管やリンパ節が傷ついたことが原因のむくみであって、腎臓や心臓に原因のあるむくみでないと分かっている場合に有効な方法です。


もっとイメージしやすく

◎むくみ解消のイメージモデル
リンパ浮腫・むくみの解消のイメージは雪などで路線に障害が起こり、駅に乗客があふれた状態と似ています。
手術によりリンパ管やリンパ節が切除されている場合、目的地へ向かう時に途中の線路(リンパ管)や駅(リンパ節)が使用不可能となり、不通または迂回をしなければいけない状況です。そのため列車の運行が滞り、駅から車両が出発できずにホームが乗客であふれ、さらに駅の外にまであふれてしまいます。これらあふれた乗客がむくみと言えます。外にまであふれた乗客を減らすことがむくみを解消する事なのです。
そのためには、
1、線路上で止まっている車両を目的地に近い所から順番に移動させ線路を確保します。治療ではリンパ液を移動させる目標の部位を最初にマッサージし、次にその隣の部位をマッサージすることを順序良く繰り返します。
2、駅に止まっている車両を動かして輸送力を回復します。治療ではリンパ管を刺激して活動を活発にさせることです。リンパ管へのマッサージです。
3、新たな車両にホームにいる乗客を順に乗り込ませます。リンパ液の取り込み口がリンパ管の末端に有るのでその口を開かせリンパ管への流入を促進させます。治療では浮腫部位のマッサージといえます。ホーム自体が空くので外にまであふれた乗客を駅へ呼び込むことができ、外で待っている乗客が減ります。つまりむくみが減少します。
この様にリンパマッサージの手順を理解すると、どうしてこのようにマッサージするのか納得できるかと思います。
目的地(最終的には心臓)へ向かうには、手術痕や傷跡などの「不通箇所」を避け、健康に働いている「正常な線路」を選択します。そのために回り道をすることになるのです。
また、輸送ルートの確保(つまりリンパ液を流すこと)に注目しがちですが、ホームの乗客を車両へ乗り込ませること(つまりリンパ液をリンパ管に取り込ませること)の方が重要です。掃除機のモデルと併せてイメージしてみてください。


大切なポイント


◎ 大切なポイント
脚や下腹部の皮膚に近い部分のリンパ液は、一旦ソケイ部に集められ腹部の深い所を走るリンパ管を経由して最終的には静脈へ合流し、心臓へと戻って行きます。腹部深部のリンパ管は腹式呼吸による腹圧の変化で刺激を受け活性化します。ですから脚や下半身のむくみな場合に腹式の深呼吸は大切です。ゆっくり大きくお腹を膨らませての深呼吸を20~30回ほど繰り返しましょう。同じく運動もむくみに対しては有効です。筋肉が緊張したりリラックスしたりすることを繰り返すことで、中を通っている血管やリンパ管を圧したり緩ませたりして、弁を持った静脈やリンパ管が血液やリンパ液を心臓方向へ送り出すポンプ作用を補助します。特に脚は重力に逆らって血液やリンパ液を運び上げなければならないので脚の運動は大切です。第二の心臓ともいわれるフクラハギの筋肉の活動はリンパとむくみに関係します。座ってじっとしている時でもフクラハギに力を入れたり、足先を持ち上げたりして筋肉を動かすなどの工夫も助けになります。運動に関してはリンパ浮腫ケアと管理のページも参照してください。腕の場合は鎖骨の上の窪みと腋の下が重要です。リンパ管が合流する所だからです。乳がんや子宮ガンなどの手術でリンパ廓清を受けリンパ浮腫になった方は、このソケイ部や腋の下を郭清されているのでこの部位をマッサージすることはできません。そこを迂回する形でリンパ液を排出させます。また手術痕や傷跡などもリンパ管を分断していると考えますので、そこを横断する形でのマッサージは行いません。これを原則にしてリンパのマッサージは行われます。
 
◎ 浮腫(むくみ)の状態 
一般的にむくみは、朝の状態の方が夕方や夜より良い場合が多いと言えます。一つには寝た方が心臓へリンパ液が戻りやすいからです。立ったり座ったりしていると、心臓の位置は脚や足よりも常に高い位置にあるために、血液やリンパ液が心臓に戻るということは重力に逆らうことになり停滞しやすくなります。寝た状態では心臓の位置は脚や足、腕もほぼ同じような高さに位置するので、血液やリンパ液が戻りやすくなることは理解しやすいと思います。また、疲労はむくみを増やす要因でもあり、疲労回復の為に横になればむくみも減少します。健康な方でも立ち仕事や多く歩いたりした場合にむくみが出ますし、脚を挙げて横になると気持ちよかったり、むくみが無くなることは経験がおありだと思います。 リンパ浮腫の方はこの回復力が健康な方に比べ落ちているので浮腫状態が続くのですが、少しでも負担を減らすために疲労回復を図ることが必要です。また、今までは簡単にできていたことでも負担になっている場合もあることに留意して、意識してこまめに休憩を取り体をいたわることが大切です。むくみは常に一定状態を保っているわけではなく、その日・体調によって状態が変化しているものです。むくみの増減で一喜一憂せずに、むくみを体調変化のバロメーターとして考えて健康管理に役立てることを考えましょう。


注意する事


◎ 注意する事
むくんだ状態が長く続くリンパ浮腫の方が急な発熱といった炎症を起こす場合があります。「蜂窩織炎」と言われるものです。午前中は何ともなかったが、午後におかしいなと感じ、夕方には 38 度以上の熱が出て、体が震え、むくみの部分が真っ赤になってしまったという方がいらっしゃいました。その他にも数か月に一度とか年に一度は炎症症状を起こすという方もいらっしゃいます。リンパ浮腫では炎症に体する心構えが大切になって来ます。炎症が起きた場合は直ぐにお医者さんにかかり、治療することが必要です。また患部を冷やすことも重要です。何故急に炎症が起きるのかはっきりとは分かりませんが、忙しくしていたとか、旅行から帰ってきて直ぐだったとか、体力が落ちている時に発生するケースが多いように感じます。自分で思っている以上に疲労が蓄積している場合も多く、今までより多く休息をとったり、リンパのマッサージをしたりといった健康管理が大切となって来ます。炎症を起こさせないように注意することは、以後の体の負担を減らし、浮腫の悪化を防ぐことにもつながります。


 

体・組織の変化


◎ 体・組織の変化
むくみ(浮腫)が長い期間続くと、常に体の内側から膨張刺激が加わって皮膚に変化(変性)が現れてきます。全ての人がそうなるわけではありませんが、割合に多く見られます。皮膚がカサつき、乾燥肌のように粉をふいた状態や皮膚が細かい状態で(フケ状)浮いてボロボロとはがれてきます。更に皮膚がぶ厚く、硬くなり、時にはかかとの皮膚のようにガサつきます。関節部分のヒダは深くなりデコボコした状態が見られます。手や足は赤ちゃんの様に、ふっくらとした甲のふくらみから指や趾が突き出て見えます。また、色素が集まり出して黒ずんでくることもあります。 リンパ浮腫が進行すると皮膚の弱い部分からリンパ液が漏れだしてくることもあり、それが広がって潰瘍状態となることもあります。いわゆる象皮症です。皮膚を突き破ることは感染症にかかりやすくなる事でもあり、浮腫を悪化させる要因になるので充分な対処が必要です。そのため早期の治療が大切と言えます。ですから、リンパ浮腫の方は普段から皮膚の状態に注意を払い、それ以上浮腫が増加しないことを第一に考える事が大切です。また、リンパ廓清をされた「浮腫の可能性を持っている方」も皮膚の状態を常にチェックし、変化に注意して良い状態を保つ努力が必要といえます。