リンパ浮腫治療に役立つコラム

 


リンパ浮腫の治療のために来院される方は、今ではほとんど病院などで「セルフケアの方法」を教わってからお見えになります。生活上の注意事項などに関しては以前よりも徹底されてきているように思います。ただ、以前からもそうでしたが、リンパマッサージ・ドレナージュに関しては「さする」方法をされる方が多いことについては戸惑いを覚えます。
確かに自分自身でマッサージ・ドレナージュを行うことには制約が多く、専門的な方法を使用しにくい部分があることは確かですが、正確な手技を行いやすい部分までも「さする」方法で代えてしまうことは効果的・効率的に疑問が残ります。
マッサージの基本の部分でも書きましたが、ドレナージュ手技の基本は「皮膚とその下の皮下組織を動かす」ことで、リンパ管の外にあるむくみの組織液(リンパ液と同質のもの)のリンパ管の中への取り込み促進することにあります。つまり、リンパ管の末端にある、液体の取り込み口を動かす(周囲の組織ごと引っ張ったり、緩ませたりする)ことで、開口部からの取り込みを活発にするのです。この皮膚と皮下組織を一緒に動かすということのために、リンパマッサージ・ドレナージュではオイルやクリームなどの滑剤を使用せずに、皮膚に直接施術するのです。同様に服や下着の上から行っても、表面上を滑ってしまうだけですし、皮膚の上をさすることも効果的とは言えないのです。
もちろんリンパ管の中に外からの液体を取り込む余裕がないと効率的ではないので、リンパ管の中に余裕を作るためにリンパ液の流れやすいように体の環境を整えることを事前に行います。セルフマッサージ・ドレナージュでは手が届く、届かないという問題のため、そして「ずらす」というイメージがわきにくいために「さする」方法が教えられているのだと思います。しかし、効果を求めるならば、出来るだけ正確な手技を行いたいものです。
また、「ドレナージュ(ドレーン)」は排液するという意味ですので、リンパ液を流すということを意識してしまうことは仕方がありませんが、押し出すというイメージを持たれがちになります(実際、英語の教科書ではpushと表記されています)。繰り返しになりますが、リンパ管には筋肉があってその収縮活動で流れを作り出し、弁を持つことによって流れをコントロールしています。押し出そうと頑張っても効率的とは言えないのです。リンパマッサージと称してオイルマッサージをしていたり、押し出すマッサージをされて浮腫を悪化させてしまった方もいらっしゃいます。
一度覚えてしまった手技を修正することは大変なのですが、効率的・効果的なセルフマッサージ・ドレナージュのため、正確な手技に修正することをお勧めします。

 


リンパ浮腫の場合に起きる皮膚や痛みなどのトラブルは色々あります。リンパ浮腫は基本的には痛みは出ない疾患とされていますが、違和感を訴えられる方もいらっしゃいます。その程度も様々で、蜂窩織炎などの炎症のきっかけになったと考えられる場合や、冷やすことで収まってしまう場合、リンパ浮腫とは直接的に関係していない違和感と考えられるケースなどがあります。
◎皮膚に関するトラブル
皮膚がピリピリするケース。むくみが急激に増加する場合に、そこを覆っている皮膚がその膨張に追いついていかないことがあります。そのため常に皮膚がツレる感覚があり、ピリピリしていると感じられるのです。また、浮腫は常に皮膚に対して刺激を与え続けるので、皮膚が過敏になっていることも原因に加えられます。
虫刺されやジンマシンのように赤い斑点やブツブツができているケース。圧迫ストッキングなどを着用しているので、皮膚が弱い方の場合に軽い擦過傷や繊維に対するアレルギーに近いダメージを受けていることが考えられます。特に夏などにはあせものような状態で起こる場合もあり、そのようなときには一時的に圧迫を中断することもあります。時々このような斑点の出現に続いて炎症になったと訴えられる方もいらっしゃいますので注意してケアする必要があります。
一部分の皮膚に赤い広がりがあり、熱感を感じるケース。炎症を起こした後で一部分にリンパ管炎が残っているためにそうなっていると思われる場合があります。患部を冷やしたりする場合もありますが、ドレナージ可能なケースもあるので、状態をよく観察して対処します。
乾燥肌になっているケース。リンパ浮腫では常に皮膚は刺激を受けていて、組織の繊維化や増殖が起こるので、乾燥や肥厚、ひび割れなどのトラブルの原因となりやすいものです。保湿対策が必要で、自分の肌に合った保湿剤やクリームを塗ってケアをします。
◎患部の感覚
重だるく感じるケース。リンパ浮腫では当然患肢の体積も増え、重量も増加しますので重さを感じることになりますが、実際の重さだけでなく、いわゆる「ダルさ」や「はばったさ」を訴える方も多くいらっしゃいます。腕の浮腫の患者さんに時々見られるのですが、腕というよりは肩甲骨の付け根の外側に「重だるさ」や「膨張感」を感じる場合があります。触診しても浮腫があまり感じられないことも多く、手術の際のダメージが違和感として感じられるのだと思われます。1年程度でその違和感がなくなる場合もありますが、長期間続く場合もあり、ダメージの回復を待つ必要があるように思います。
◎その他の症状
皮膚のピリピリ感のように表面的な感覚異常ではなく、しびれ、感覚麻痺などのケース
手術時のダメージにより傷ついた神経組織の回復が遅れている場合が考えられます。また、急激に出現した神経的な異常は、リンパ浮腫や原疾患が悪性の経過を取っている場合もあり、お医者さんに相談し検査を受けるケースといえます。

 
 


むくみは発熱などと同じく病気の症状の一つであり、様々な原因によって発生します。繰り返しになりますが、「むくみ」即「ドレナージュ」という安易な使い方は間違いです。リンパドレナージュや圧迫療法には行ってはいけない疾患もあるので注意が必要です。
やってはいけない場合に分類されているものの中にも、病気の根本的な治療にはならないのでドレナージュを行わない、病気自体にドレナージュは役に立たないという面からやってはいけない場合に分類されるものがあります。しかし、緩和ケアの場合にドレナージュが役立つと考えられることもあります。例え疾患の根本的な治療には役立たなくても、ドレナージュ後に「むくみ」が軽減され、患者さんには「良くなれる」というポジティブな思いが出てきます。また、ドレナージュは直接肌に触れ、軽く優しく方法ですので、軽快さや気持ち良さを実感できます。時にはドレナージュ中に軽い寝息をたてている方もいらっしゃいます。その様なメンタルに対して働きかける側面から見ると、お医者さんの指導の下でリンパドレナージュを緩和ケアに使うメリットはあると思います。
しかし、同じ緩和ケアでも腹水や胸水の場合には逆に患者さんに負担や状態の悪化を招く事があるのできちんと分けて考える必要があります。
高齢の方で、運動量が少なく下肢がむくむケースや半身麻痺の場合にはドレナージュは適応症です。関節運動や抵抗運動をドレナージュに加えることでむくみは軽減し、皮膚や感覚器に刺激を与えるのでケアに適しています。
この様にリンパドレナージュの特性である、柔らかな優しく軽い手技という利点を生かして色々な状況に対応することが大切であり、行ってはいけない場合との区別をつけることも知っておかなくてはなりません。


 


むくみは血管と組織・細胞の間で多くの選手がキャッチボールをしている状態に似ています。体では常に血管から組織に酸素と栄養というボールを投げ込み、組織から二酸化炭素や老廃物・蛋白質というボールを返球しています。このボールは水分を引き寄せます。血管から投げ込まれたボールが組織側、つまり血管の外に多くある場合には、それに引き寄せられる水分も多く組織側に留まることになります。これがリンパ浮腫のむくみです。蛋白質や一部の脂肪は大きいボールなので、血管では受け取ることが出来ないため、リンパ管が受け取る役割りを果たすことになります。
むくみの無い健康な状態は投球と返球のバランスが良い状態です。組織側の返球がきちんと返って来ている場合にはむくまず、組織側にボールが多く溜まってしまっている場合にはむくみが出るのです。
リンパ浮腫の場合には、一次性(原発性)リンパ浮腫だけでなく二次性(続発性)リンパ浮腫も、基本的には個人個人の体質の違いにより発生します。更にいえばリンパ管やリンパ節といったリンパ器官のネットワークに個人差(個体差)があり、ネットワークが密であるか粗いかといった受け取る側に余裕があるか無いかという問題ともいえます。つまり、組織から投げ返される大きなボールを受け取るリンパ管側に余裕が無いので組織側に大きなボールが残ってしまい、そこに結びつく水分も多く残ってしまうのです。
大きなボールは小さなボールも含めたボール全体の10%程度ですので、それほど多いとは言えません。ほとんどのボールは血管が受け取る普通のボールです。一部の疾患ではこの普通のボールのやり取りがうまく行かず組織側に水分が留まってしまうこともあり、同じむくみとはいえリンパ浮腫とは違う状態といえます。 ですので治療法も違ってくるのです。
 リンパ浮腫の治療はリンパ管側の受け手の効率を良くしてやる方法です。そのためにマッサージや圧迫しながらの運動があり、総合的に考えられて構成されています。