複合的理学療法

CDP/KPE


リンパ浮腫の物理療法治療の基本
 
その名称:
Complex decongestion physiotherapy (CDP)(英)
Komplexe physikalische Entstauungstherapie (KPE)=コンプレックセ・フィジカリッシェ・エントシュタウウングス・テラピー(カーペーエー)(独)
 
*以下、(D)はドイツ語、(B)は英語、(L)はラテン語医学用語を意味する。
*発音はそれぞれの用語の発音に準じており、馴染のないドイツ語のみ一応のカタカナ表記をする。ドイツ語は格変化や複数などで表記や発音が変化し、同一のものを意味していても多少変化することがあります。
*手技名や部位名などにおいての訳語は個人的な仮訳であり、正確なものとは限りません。基本的には独語の直訳と日本語による解説を心がけていますが、可能な限り英・独・羅を併記するので各自理解し易い語を選択して下さい。
*特に手技名や動作については、ドイツ語とその訳語である英語及び日本語の持つ語感とが必ずしも完全に重なり合ってはいないため、違和感を生じることがあります。
*解剖学的用語などがドイツ語的変化と混在している場合があるが適宜訂正する。
*あくまで参考用ノートであるので、各自、出自や原典で確認して下さい。


治療のリンパ学


療法で必要な知識の範囲
 
この療法で第一に必要な知識は「リンパ(脈)管学」 lymphangiology(B), Lymphangiologie=リンパアンギオロギー (D)としてのリンパ管系の解剖・機能・病理など、リンパ器官に対する理解である。
 関係する「リンパ腺(節)学」lymph adenology(B), Lymphadenologie=リンパアデノロギー(D)は
・リンパ節「lymph node(B), Lymphknoten=リンパ・クノーテン(D),Nodus lymphaticus(L)」、
・扁桃「Tonsil(B),Tonsillen=トンジーレン(D)」、
・脾臓「spleen(B),Milz=ミルツ(D)」、
・胸腺「thymus(B),Thymus(D)」、
・Peyer腺「Peyer’s plaques (glands/patchs)(B),,Peyer’schen Plaques=パイエリシェン・プラケス(D)」、
・骨髄「marrow(B),Knochenmark=クノッヘン・マルク(D)」
を扱い、免疫学・血液学・腫瘍学と密接に関係している。
 
リンパ管系では、その管の細部において非常に多くの「正常な変異」が存在している、つまりバラエティーに富んでいるため一概に述べることが困難である。大きな輸送管・リンパ本幹や胸管においても、各 70から 80%の走行に解剖学的変異が考えられ、そのうち 20から 30%はかなりな位置や発達のバラエティーが存在するとも言われている。( *3)中枢神経系を除いた全器官はリンパ管システムを有している。
参考文献:
1:Manuelle Lymphdrainage nach Dr.Vodder(Wittlinger et al. :Thieme)
2:「Lehrbuch der Lymphologie」(Földi, Földi,Kubik :Elsevier)
3:「Das Lymphödem」(Pritscow, Schuchhardt :Vavital)
以下に述べる説明などはこの参考文献を基礎に引用し比較を行い、以後は特に表記しない。


手技の変遷


徒手リンパ排液法「manual lymph drainage=MLD (B), manuelle Lymphdrainage=MLD、時にML (D)」
 
このマッサージ法は1930年代初頭、デンマーク人Dr. Phil.Emil Vodderによりリンパ排液マッサージとして彼がフランスで働いていた時に考案され、「Vodder式徒手リンパ排液法(Manuelle Lymphdrainage ad modum Vodder)(仏)」と名付けられた。技術が普及していく中でVodderの技術はドイツ人医師Dr.Asdonk(アスドンク)と共にリンパ浮腫にも応用が図られ、ヨーロッパ、とくにドイツ語圏で広く用いられるようになり、保険適用もされるようになった。その後、チューリッヒ大学のKubik(クービック)やFöldi(フェルディ)が医学上の理論的バックグラウンドの補強を行っている。
Vodderの系譜は、彼と共に研修コースの場を持ったオーストリアの「Vodder Schule(ボダー・シューレ)」のWittlinger(ヴィットリンガー)に受け継がれ、そこでコースを終了したセラピストたちにより更に普及した。
 
手技の基本
 
手技の全般的・基本的な作用機序については Földiのまとめが詳しい。
 
MLDはE.Vodderが創出した4手技が基礎となっている。
○柔らかな回旋性で、主として皮膚上に伸長刺激を加え、特に筋膜上の[Epifaszielen(D),epifascial(G)]リンパ管への作用をもたらす。リンパ分節壁[Lymphangionwand(D)]への伸長刺激が分節活動を高め、組織圧の上昇[Erhöchung des Gwebedruckes(D)]によりリンパ生成を助長する。
○リンパの排液方向への送り出し「送り出し段階」[Shubphase=シュープファーゼ(D)、push phase(G)]:
柔らかな環状の伸長刺激を皮膚上に加え、意図する排液方向へ送り出しを補助する。
 
○単に皮膚との接触だけを保つ「弛緩段階」 [entspanungsphase=エントシュパヌングファーゼ (D)]
力を加えないことでリンパ管は受動的に遠位から充満する。これを「吸引作用[Sogwirkung=ゾッグヴィルクング(D)]」とも云う。
 
つまり、皮膚上(皮下組織を含む)に刺激を加え、組織圧を高め、リンパアンギオンの収縮活動を増加させることでリンパ排液量を増加させる作用をする。一方で排液し“空になった”伸ばされたリンパ管が再び元の状態に戻る時に遠位からのリンパ液の流入をもたらす「引っ張り込む」作用が生じることを指摘している。
このような組織圧の規則的な交代の繰り返しがリンパ生成、つまりリンパ管(盲端)周囲組織からの組織液の取り込みを促進することで浮腫の軽減が図られるという考え方である。
 
更には、
MLDが作用するのは平均1㎜以下の口径のリンパ管と、前リンパ通液路よりも目の細かい弁構造を持たないリンパ毛細管網である。従って手技はゆっくりと実施され、伸長刺激が与えられるよう皮膚に密着させて行う。逆に不必要な密着もアンカー線維が破壊される可能性があるため否定される。刺激過多の場合にはリンパアンギオンの痙攣の可能性も言われている。MLDは一般的には充血を起こさせてはならない。健全なリンパ管の安静時の分節運動収縮頻度は毎分6回、運動時には16回程度であることを考えれば、速い動きはナンセンスといえる。
としている。
 
wittlingerでは、
皮膚に接触することにより、特定の反応「 particular reaction(G), bestimmte Reaktion=ベシュティムテ レアクチオン(D)」を生じる受容器を刺激する。どのような受容器が刺激され、どのような作用を生じるかは皮膚接触の種類(性質)次第「determined by the nature of the skin contact(G), kommt auf die Art der Hautberührung an(D)」である。
と述べている。
 
Pritschowは、
徒手リンパ排液法の4手技はリンパアンギオン動力の増加と、無弁のリンパ管網および間質の間隙に存在する液体の移動に関係している。
と述べている。
 
総合すると、伸長刺激が皮膚接触を通じてリンパ管に伝えられ、リンパ管の伸長や吸引効果、リンパ管の拍動「 Lymph-Angiomotorik=リンパアンギオモトリック( D)」の増加を生じリンパ排液量が増加する。
特に二次性リンパ浮腫の治療で用いられる場合には、リンパ分水嶺などの無弁のリンパ管ネットワークを経由することで、意図した方向にリンパ液を誘導することができるという考え方が基本になっている。


基本的な手技


 
基本的な4手技
Vodderのマッサージテクニックは4つの基本手技があり、上記の考え方に基づいて行われる。
Wittlingerでは、円または楕円で、小さくまたは大きく、広い面を用いた回旋性の動き「circular motion, Kreisbewegungen=クライスベベーグンゲン(D)」を組み合せて、皮膚の上を滑ることなく動くこと「move the skin without sliding over it(G), nicht über die Haut gestrichen(gestreichen?) wird(D)」としている。
ここで大切なことは「皮膚の上を滑らせてはいけない」ということである。後述するテクニックの中には皮膚の上を一部滑るテクニックが存在するが、基本的には滑らせないことが原則である。
 
○  Stationaly circle(B), Stehendekreise= ステーエンデ・クライゼ(D)
 
あえて直訳すると「留置円・環」「留置回旋」(作用面は接触面の同じ場所に留め置かれたまま環状に回旋を加える)と出来るが、円を描く様に回旋する動きを意訳する「描円手技」をここでの仮訳としておく。
*手技名はドイツ語またはその英語訳語の発音を用いることが多い。
 
皮膚上に手・指を置き、そのまま皮膚表面と手・指の接触位置を移動せず(皮膚上を滑らさず)に皮膚や皮下組織の可動性(ゆるみ)を利用して円を描く様にマッサージを加える「 push(B)押す・圧す、 verschieben=フェアシーベン (D)押しずらし、送り出し」手技である。排液目標・方向を決め、円を描く際に排液方向に向かう場合は軽い圧を漸増し、逆に排液方向から戻って来る場合は圧を漸減する。圧をあまりかけない手技なので、日本語の語感として「押す」としてしまうと強い手技と誤解されることも考えられるので、皮膚を「ずらす」という表現をここでは用いることにする。実際にかける圧は皮膚上を滑ることがなく、しかし出来るだけ軽い圧である。
Wittlinger(ヴィットリンガー)では「開始位置」(「Ausgangsstellung (Aste)」(D)・「starting position(SP)」(B)の語を用いて、開始位置から「push-pressure motion(G)・Druck-Schub-Bewegung(D)」をかけ、排出する位置でその強さが最大になる様に漸次増強し、その後、開始位置で最初の状態である「0相(状態)」(zero phase)まで漸次軽減するとしている。
*Wittlingerでは「Druck-Schub-Bewegung」と「Schub- Druck-Bewegung」(圧-ずらし-動作、ずらし-圧-動作)という動作を表現する2つの語が用いられている。
 
Földi(フェルディ)はこれを能動過程(ずらし過程)と受動過程(弛緩過程)とし、皮膚が皮下組織に抗して全過程(円)の半ばまで「ずらし」を与えられる過程と、手の力を抜くことで自動的に皮膚が開始位置まで戻される過程とを分けて表現している。
 
Pritschow(プリッショフ)は 12時の位置から 6時の位置までは徐々に圧を加え、 6時から 12時の位置までは圧を減らすと具体的に述べている(ここでの 12時は開始位置で、 6時は排液方向である円の反対側)。
 
回旋させるリズムは1秒以上かけるゆっくりしたリズムで、1ヵ所につき5回程度繰り返すことを基本とすることは共通している。
1ヵ所の施術を終えると次の施術場所へ移動するが、その際には皮膚の上を滑り動きながら連続させることはせず、独立して次へ移動する(手技がぎこちなくならないようにリズミカルに移動する):などが特徴と言える。
Wittlingerが上記で述べている通り、手掌・指先など、施術面は施術部位の大きさに合わせて出来る限り広く当て、胸郭や背部などの広い面は両手掌を用い、鼻尖・腱の間などの小さい面は指先を当てて行う。この手技は拇指・示指1指だけ、示指・中指・薬指の三指、四指の掌側、手掌全体を当てるなど、臨機応変に行う事の出来る基本中の基本と言える。拇指で「Stationaly circle(B), Stehendekreise(D)」を行う場合、「拇指回旋」「Thumb circle (B), Daumenkreis =ダウメンクライス(D)」と特に表記する場合がある。
 
○  pump technique(B), Pump Griff =ポンプ・グリッフ(D)
 
訳語としては「ポンプ手技」か。拇指「 thumb(B), Daumen=ダウメン (D)」を外転し手首を立て、拇指と示指の間の「水かき (Schwimmhaut=シュイムハウト (D)」部分を当てて行う。開始位置では圧を加えず( Wittlinger :「 0相(状態)」 zero phase)、最初は手掌を浮かせ手首を蝶番状に動かしながら、手掌が接触し皮膚のずれる限界まで組織に圧を加える手技。圧を加えた後、力を抜くこと( Földi:弛緩段階)で自然に組織が元の位置( Wittlingerの開始位置 Aste)に戻り、再び手首を屈曲させる際に手掌が前方に進み手技が更新される。
横断軸と前方への動作は同時に行われる。
Pritschowはこの手技の作用は「筋膜上(epifaszial(D),epifascial)」にまで浸透するとしている。
 
Scoop technique(G) / Schöpfgriff =シェフグリッフ (D
訳語としては「すくい手技」か。
 
Földiによるとこの手技は「 Flüßigkeit verschiebend=フリュシッヒカイト・フェアシーベント( D)」・液体の送り出し作用があり、組織の横断的伸長 (Queredehnung=クエアデーヌング )と組み合わされている。作用部位としては、主として筋膜上「 epifascial(B)/epifaszial(D)」の管に作用するとしている。
Pritschowは特に皮膚の無弁のリンパ管に作用すると記している。
この手技は四肢、つまり細めの部位に適用され、片手または両手で交互に(Wittlinger:einhändig und beidhändig wechselsinnig)行うことが可能である。
 
Földiの記述では、動作は前方に進む動きであり、送り出し段階と弛緩段階の間に明確な境界は無く、一連の動作となる。
開始状態(Aste)はポンプ手技と同じ。四指(Wittlinger:「中手指節関節と指」)を伸ばし、拇指「thumb(B), Daumen=ダウメン(D)」を外転し手首を立てる。拇指は四指と反対に位置する(Wittlinger:「lumbrikalen手技」と類似する)。握る形だがきつく握らず、術者の手を大きく当てる。
 
作用面はいわゆる「水かき」の部位で、それを開始状態から手首を側方と前方( Wittlinger:「 Ulnaduktion」=尺側外転,「 vorn」=前方)へ移動させ(滑らせ)る。術者の指は示指から順に施術面から離れるが、小指側は接触を最後まで保つ。徐々に圧をかけながら、離れて行く指が排液方向を指し示すまで皮膚の上を横断的にスライドさせる。側方への動きで横断的な「ずらし」( Wittlinger:「 Querschub」、 Földi:「 Querdehnung」)が組み合わされる。
この動きをPritschowは、手首を側方に落とし込み、伸ばした指は排液方向に移動する。手技はなめらかに連続して行い、「腕をねじる」ような動作(Wittlinger:「示指方向へのらせん状の動き」)になる。圧はスムーズに増加され、その後手首を立てる時(Vodder:「gehende Bewegung」=移動動作)にスムーズに減少させる
 
Rotary Technique(G)/ Drehgriff= ドレーグリッフ (D )
訳語としては「回旋手技」か。
 
適用する部位は、背部・胸郭などの大きな平面部や体幹部であり、作用としては「描円手技」「 Stationaly circle(B), StehendekreiseD)」と同様に、液体の送り出しおよびリンパ生成・リンパ輸送の増強といえる。
手掌全体を平たくした状態で(指・中手指節関節を伸ばし、手掌も伸ばす=Wittlinger)、拇指を90°に外転させ、施術面に力を加えずに(0状態)置く。この状態から手掌が「Schub- Druck-Bewegung」(ずらし-圧-動作:Wittlinger)を外側前方に向かってやや楕円状に行ってから、軽く尺側への移動と圧の減少を0状態まで行う。0状態の時に拇指は再び示指に接する。
Wittlingerの英語版では「拇指は皮膚を横切って示指方向へ移動する。その場合でも拇指と指尖は背部の皮膚との接触を保持する。」としている。
Pritschowでは、四指は常に排液方向へ向き、手技の更新の為に拇指はその場にとどまり、「尺取り」状態で首相が前方へ移動し、手掌全体が組織面に接触し前方に移動するとしている。