複合的理学療法

リンパ管系


リンパ管の構成
 
リンパ管の脈管システムは間質(interstitium)に始まります。間質にはリンパ管の始まりである起始リンパ管「initiales Lymphgefäß(D)、initial lymph vessel, initial lymphatics(B)」へ間質液を導く線維の列による前リンパ通液路「prälymphatische Kanäle(D), prelymphatic channel(B)」が見られます。突起状になっている起始リンパ管の内皮細胞は端の部分が隣接する内皮細胞と辺縁部が重なり合っていますが、この重なりは密着しているのではなく、可動性(揺動性)があるためリンパ管の開口部を構成することになります。起始リンパ管はアンカー線維によって間質中のコラーゲン線維と繋がれていて、浮腫により組織の膨張が高まると、それにつられアンカー線維は引っ張られ、起始リンパ管の内皮細胞を引っ張り、重なり合った部分に隙間を生じさせ、開口部を形成します。これにより間質部にある液は起始リンパ管の内腔へ侵入するのです。そうなると今度は起始リンパ管内圧が高まり、内皮細胞の開口部は再び閉じることになります。これがリンパを生成する一連の事象であり、リンパ管内に取り込まれた時点で間質液はリンパ(液)と呼称されるのです。
リンパドレナージュ(徒手・用手的リンパ排液法)では、皮膚および皮下に「ずらし」という緊張を加えることでアンカー線維を引っ張り、内皮細胞の重なりを引き離すことでこの開口を生じさせることを目的としています。そのため皮膚の上に当てた手が滑らないように、ヨーロッパではマッサージの主流である滑剤(オイルやクリーム)を用いた手技は行いませんし、衣服の上から手技を行うこともしません。また皮膚の上を撫でたりさすったりする手技もほとんど行われません。これはマッサージを作用させる部位がこれら表層にあるリンパ管であるため筋層にまで達する強い圧を必要としない一方、表面を擦るだけの手技では皮下にあるリンパ管を伸長させ、起始リンパ管周囲に緊張を加える作用を加えにくいためです。さらに、滑って摩擦を生じると皮下に充血が起こり、多くの間質液を生じる結果になります。
「リンパ管が脆いので、それを破壊しないために強い刺激を行わない」とする説明は、本質的な作用機序に対する洞察が欠けているように思われます。
浅部の毛細リンパ管層に次いで、弁と筋細胞が不規則に見られる前集合リンパ管「prekollektor(D), lymphatic pre-collector(B)」が続き、更に大きなリンパ管である集合リンパ管「Kollektor(D), collector(B)」へ連絡していきます。集合リンパ管レベルからは内皮・筋層・外皮という規則的な3層構造が見られ、分節「angion(D),(B)」としてリンパ流の方向を決定する弁構造も見られます。前集合リンパ管レベルから弁と筋層は存在し、神経支配が行われ、分節ごとに自動的な歩調取りにより制御されています。つまり、歩調取り様インパルスが伝えられ収縮を行うのです。これらは交感・副交感神経という自律神経系を介して行われます。集合リンパ管は鼡径部や腋窩などの局所リンパ節群まで走行し、リンパ本管(乳び管・胸管)と繋がり、最終的に静脈に吻合し合流することになります。
リンパドレナージュがリンパ液の最終集積点として局所リンパ節群を最初にマッサージするのは、間質液をリンパ管内に取り込みやすい環境を作るためであるといえます。リンパ管内の液を先へ送り出すことでリンパ分節内の圧力は減少し、遠位にあるリンパ管からの液の受け入れや、起始リンパ管においてリンパ管外の高い圧力にある間質液の取り込みを容易にします(吸引効果「Sogwirkung(D)」)。また、リンパ管にある平滑筋の収縮活動を増加させる刺激を加えることで、リンパ管の排液量の増大させる意図もあります。
このように、リンパドレナージュの手技は一部を除いて、皮膚と共に皮下組織を「ずらす」ことと、その後「力を抜く」ことで、緊張と弛緩を繰り返し、リンパ管の活動をリンパ管外にある間質液を管内に取り込み「浮腫」を軽減することが出来ると考えているのです。
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リンパの排出領域と連絡性
 
発生したリンパは起始リンパ管に取り込まれた後、徐々に太くなるリンパ管や途中にあるリンパ節通過して心臓へと向かいます。大まかに云えば、人体の全リンパの3/4は胸管経由のものを含めて左静脈角を、1/4は右リンパ本幹経由で右静脈角を経由して心臓に還流します。
皮膚の表在性のリンパ系は異なる領域ゾーンに分かれてその排出を担当しています。体幹部には4つの領域ゾーンがあり、正中線で左右2つに、ウエストラインで上下2つに分けられ、1/4ずつが体幹部四半分領域「Rumpfquadranten(D), trunk quadrants(B)」と呼ばれます。上部の領域はそれぞれ左右の腋窩リンパ節(Lymphonodi axillares)に流入し、下部の領域はそれぞれ左右の鼡径リンパ節(Lymphonodi inguinales)に流入します。腋窩リンパ節からは左右の静脈角へ吻合し、鼡径リンパ節からは左右2つのリンパ経路である腰リンパ本幹(trunci lumbalis)がY字状に一つになり、腸リンパ本幹(trunci intestinales)と共に乳ビ管へ吻合し胸管となり最終的に内頚静脈と鎖骨下静脈で構成される左静脈角に吻合します。
解剖学的には吻合には多くの変異・バリエーションがあります。解剖学的変異は上肢のリンパ管の吻合や、鎖骨神経に沿った下腿からの坐骨吻合が直接腸骨リンパ管に合流している場合などもみられ、リンパ廓清後でもリンパを排出できる理由の一つになっています。
リンパ排液領域を分けている部分をリンパ分水嶺「Waaserscheide(D), watershed(B)」と呼んでいます。Kubikは、ここはリンパ管の少ない領域の境界ゾーンであるとしています。このゾーンは領域相互でリンパが完全に往来できないわけではなく、少ないとはいえ隣接する領域との連絡性を保っています。同時に無弁の浅在性の皮下リンパ管網も境目のないネットワークとして皮膚全体の領域をカバーしているため連絡性があります。前集合リンパ管レベルでも、リンパ分水嶺を架橋できるリンパ-リンパ吻合も見られますが、集合リンパ管になるとその連絡性は稀といえます。
しかし、領域間にこれらの連絡性があることでリンパ切除を行った後でも浮腫を免れる、もしくは治療の可能性を見出せるのです。実際にリンパ浮腫の治療では、廓清部位を迂回して隣接する領域へリンパを誘導し、健全に機能しているリンパ節群を経由して排液を行う方法をとっていて、この連絡性がその理論的根拠となっています。
 
リンパ分水嶺・収集区域と所属リンパ節
河川がいくつもの支流を集めて大きな川となって海へ流れ込むように、ある収集区域(集水区域・排出領域)「Einzugsgebiet (Tributargebiet)(D)」に発生したリンパは集められ、所属リンパ節を経由し、最終的に静脈を介して心臓へ流れ込みます。
所属リンパ節などがダメージを受けてリンパ浮腫となっている場合、収集区域でない隣接区域へ誘導する際に、境界であるリンパ分水嶺を越えてリンパを他の所属リンパ節へ誘導しなければなりません。そのため、所属リンパ節と収集区域の関係やリンパ分水嶺への理解が必要とされます。詳細な分類は実際の臨床に必要ありませんが、Hans Pritschowが重要としているものを参考に以下に掲示します。
 
主なリンパ分水嶺「Lymphatische wasserseiden(D),lymphatic watershed(B)」
 
・頭部横断分水嶺(耳介の先端を結ぶ線)
 後頭部と前頭部を分ける分水嶺
 ・上方水平分水嶺「obere transversal WS(D),Upper horizontal(transverse) watershed(B)」
 腹側は鎖骨に沿った分水嶺、背側は棘‐肩甲骨の上の分水嶺で体幹領域と頸部からの領域を分ける
 ・下方水平分水嶺「untere transversale WS(D),holizontal(transverse) watershed(B)」
 臍部を通る分水嶺で体幹部を上下に分ける。このラインと正中の分水嶺のラインで分けた部分は体幹四半分「Rumpfquadraten(D),quadrant(B)」
 ・矢状分水嶺「median-sagittale WS(D),medial sagittal watershed(B)」
 腹側・背側の正中線で左右を分ける
 ・ズボン底部分水嶺「Hosen-boden WS(D),gluteal watershed(B)」
臀部座面とその他を分ける、座面側は大腿内側を通って鼡径リンパ節へ、その他は臀部外側を通って鼡径リンパ節へ流入する
  
重要な所属リンパ節と収集区域(排出領域)
  
〇オトガイ下(submentares)=下唇、オトガイ、舌尖 
〇顎下(submandibulares)=唇、鼻外側、頬、下眼瞼、上眼瞼中間部、歯肉、舌、口腔底、頬粘膜
〇耳介前(praeauriculares) =耳介前部、鼻根、上眼瞼外側部、耳下腺 
〇耳介後(retroauriculares)=耳介後部、頭皮との隣接部、耳介中間部
 〇後頭(occipitales)=後頭部及び襟元の皮膚、咽頭扁桃(不規則)
 〇浅・深、上・下 頚 (cerviculaes superficiales et profundi, superiors et inferiors)=頭部、頚部
 〇腋窩(axillares)=上肢、体幹四半分の上側(体幹部上半身)、胸腺
 〇胸筋(pectrales)(胸筋間)­=胸腺、四半分領域の外側
 〇胸骨傍(parasternales)=胸腺内側部
 〇肘(cubitales)=前腕の尺側皮膚部、前腕と手の骨・関節・筋・結合組織
 〇腸骨(iliacales)=鼡径リンパ節・内生殖器・卵巣からのリンパ
 〇鼡径(inguinales)=下肢、下方の体幹四半分領域の皮膚、外生殖器
〇膝窩(poplitei)=踵・アキレス腱領域、下肢深部領域
 
まとめ
  
リンパ管は静脈と同じように走行し、同様に弁構造を持っていて壁構造も血管系と似ていますが、相違点がいくつかあります。
1)リンパ系は閉鎖循環ではなく開放循環系であり、起始リンパ管に始まり静脈循環へ合流し、一方向のリンパ排液を行います。
2)血液循環の駆動力である心臓のような集中的なポンプ装置は無く、リンパ管に備わっている平滑筋の収縮がリンパの駆動ポンプとなります。これは平時には歩調取りインパルスによってコントロールされていますが、マッサージなどのリンパ管を伸長する刺激により収縮頻度を上げることが出来ます。その他のリンパ管の駆動力としては静脈還流と同様に、呼吸・筋肉ポンプ・関節ポンプが作用しています。そのため運動要素も重要になります。
3)毛細リンパ管は組織からリンパを生成する管として、集合リンパ管とリンパ本幹はリンパの能動輸送を行うという機能をそれぞれ持っています。リンパドレナージュはこの2つの機能を促進させることが目的です。
 
リンパ系は異なる領域ゾーンに分かれ、生成から左右静脈角での吻合までは独自のルートと局所リンパ節群を通過することになります。リンパ管ネットワークに様々なバリエーションと、リンパ管閉塞などの緊急時にはリンパ管・リンパ節・静脈間のバイパス形成により複雑な経路をたどります。またこのことで浮腫の発生と浮腫の治療が行われる根拠になります。
上肢と下肢の集合リンパ管は概して肢に平行に走行し、局所リンパ節へ流入することで、屈曲領域を保護しています。局所リンパ節や通過途中に存在しているリンパ節は免疫フィルターとして機能しています。大部分のリンパ節は脂肪組織の深くに埋没し、通常は触知できませんが、筋肉が発達している痩身のスポーツマンなどでは触知されやすいことがあります。腫脹したリンパ節はその関係領域に炎症があることが多く、悪性疾患の可能性も考えられます。