複合的理学療法

新陳代謝への理解


血液循環系
 
順序が逆になってしまいましたが、リンパ系の理解の為には新陳代謝のメカニズムへの理解が必要として、それぞれ血液循環系について記述しています。
Földiは「リンパは毛細リンパ管内に取り込まれた間質液「interstitieller Flüßigkeit(D),interstitial fluid(B)」(組織液)に由来する。この間質液は間質中に見られるものである。」としています。「毛細血管領域で行われる物質交換である組織への栄養物質の供給とそこからの廃棄物の排出は2つの異なるメカニズムで行われ、リンパ管系の機能と意義を理解するためにはこの交換過程を知る必要がある。」と述べています。
Pritschowは「間質液のリンパ管への流入は一部、内皮細胞を介して「transendothelialen(D)」行われるが、大部分は内皮細胞の間を通して「interendothelialen(D)」行われる。…そのことで巨大分子である蛋白質の流入が可能になる。」とリンパの由来を述べています。
Wittlingerは血液・血液循環・血管・動静脈について詳述した後にリンパ管系について記し、「リンパ管系は静脈系の傍で、間質から物質を取り込む二次輸送システムの役割を果たす。解剖学的見地に基づけば、リンパ管は静脈系で輸送できない大きすぎる高分子物質全てを取り込む。これらの物質を総じて“リンパ性負荷”と呼ぶ。主に蛋白質・長鎖脂肪酸・細胞・細胞の断片・血漿である。同じくウイルス・バクテリア・炭素粉・ガラス粉といった非自己物質もこの経路で取り込まれる。…“リンパ性負荷”水分(血漿)・蛋白質・脂肪・細胞・非自己片」とリンパの輸送機能について記しています。
 
血液循環と新陳代謝の過程を理解し、生じるリンパ性負荷(リンパ系によって排出されなければならない負荷)「Lymphpflichtige Lasten(D),Lymph- obligatory loads (B)」の生成過程を知ることが大切であるという点で共通しているのです。
 
Pritschowによれば「心臓の強力なポンプ作用により全身への高圧で強力な血液灌流が動脈によって可能になる。これに対して静脈による還流は、特に下半身領域において重力によりかなり阻害される。大静脈での平均的な血流速度は7~8㎝/秒であるのに対して、大動脈では約23cm/秒である。」とし、にもかかわらず両者の動態均衡が保たれているのは、静脈の還流量が非常に多く、また血液の大部分(75%)が静脈系に存在しているためであり「毛細血管の表面全体を介して24時間で約80,000ℓの液体と物質が交換されている」としています。
更に「毛細血管領域での輸送には4つの重要なメカニズムがあり、拡散・細胞飲作用・濾過・再吸収が挙げられる。…毛細血管領域で濾過された液体(H₂O、電解質、グルコース、ホルモンなど)は間質の中を灌流し物質交換を行い、組織細胞へ達し、大部分が毛細血管静脈枝で再び取り込まれる(再吸収)。間質に残留したものの10%はリンパ管によって吸い取られなければならない。」と述べています。
Földiは新陳代謝のメカニズムに「拡散」と「浸透・浸透圧」を挙げています。それによれば拡散として「毛細血管壁は水と、塩分やガスなど水に溶解している小さな分子に対して広く透過性がある。そのため血液と組織の間に絶えず濃度均衡が図られる。物質は高濃度から低濃度へ移動する。…水と水溶性物質は内皮細胞間の隙間(内皮細胞間隙)を通って毛細血管面全体に拡散する。脂溶性物質は内皮細胞自体を貫通するが、血管壁は粒子の通過を若干妨げることにはなる。妨害を受ける拡散の方法であっても、小分子が溶解した血漿は毛細血管全体から間質へ毎分約240ℓ流れ込む。同量の水が間質から毛細血管へ逆に拡散する」と述べている。これはブラウン運動を基礎とした物質の交換方法です。
また、「物質交換の際に一方向へ行われる一方通行の拡散を浸透という」と述べ、半透膜で仕切られた容器に入った糖溶液の水面差を例に挙げて説明しています。同様に「100mlの血漿は約7gの蛋白質を含んでいるため、容器の一方側に水を、他方に血漿を入れると、コロイド(膠質)浸透といわれるものが生じる。もちろんこの場合も浸透圧、正確にはコロイド浸透圧が生じている。コロイド浸透圧は機械的圧力によって打ち消すことが可能である。蛋白分子が水と結合する力よりも大きな力が加われば、血漿中の水分は蛋白分子から分離され半透膜を通って押し出される。これを超濾過・限外濾過「Ultrafiltrat(L/D)」という。…つまりコロイド浸透圧に打ち勝つためには、超濾過に対して機械的な力を加えなければならない。」とし、このシステムはStarlingの法則に従って説明されています。
Wittlingerでは「間質液は全ての体細胞を取り囲んでいて、新陳代謝は原則的には全てこの液体を介して行われる。細胞内と外を区切る細胞膜を通して様々な物質の供給と放出を可能にしていて、そのためには生理的受動的輸送と能動的輸送が利用されている」とし、受動的輸送としてやはり「拡散・浸透・コロイド浸透・濾過・再吸収」を挙げています。「拡散は濃度を均一にしようとする作用で、濃度勾配に従って物質の移動が行われる。その作用は様々な要因によって変化を受ける。細胞への物質供給と細胞からの物質摂取を遅滞なく行うことが出来るためには、拡散距離(毛細血管と細胞間の距離)が非常に短くなければならない。温度が高い程混合は早く行われる。移動する分子が小さい程早く移動する。濃度差が大きい程拡散が素早く行われる。粘度が低い程拡散は早く行われる。」などとしています。更に「再吸収は間質内にある液体の毛細血管の静脈部分への逆流といえる。皮下の間質組織圧はやや作用が弱く濾過が行なわれるが、水分供給の高まりや浮腫の際に組織圧は高まり、間質圧を増大させ再吸収が起こる。例えばテーピングや圧迫ストッキングの着用などの外からの圧力でも、当然間質の組織圧は高めることが出来る。」と浮腫時の治療の理論的背景に言及しています。
 
◎限外濾過・超濾過「Ultrafiltrat(D)」と再吸収「Reabsorption(D/B)」
半透性の膜を通して行われる生体における水分(溶け込んでいる物質)の移動は、膜(管)の内外の圧力によっても影響を受けることは上に述べたとおりです。コロイド浸透圧は蛋白質が水分を引きつけておこうとする力「吸引力「Sogwirkung(D)」といえます。Földiに従えば「蛋白分子が水と結合する力よりも大きな力が加われば、血漿中の水分は蛋白分子から分離され半透膜を通って押し出される。これは毛細血管動脈枝では毛細血管圧が押し出す圧力に相当し、血漿のタンパク分子のコロイド浸透圧を凌駕するため、毛細血管から間質へ液体が限外濾過されている。この押し出された液体は、蛋白質がほぼ無い水分である。」とされます。しかし、「間質の圧力も0ではないため毛細血管中と間質の実質限外濾過圧により濾過が行われる。」と詳述しています。つまり、コロイド浸透圧は血管内だけでなく、血管内よりははるかに低くはあるが間質中にも蛋白質があるため間質中にも存在し、血漿蛋白濃度(通常は7g/100ml)と間質中の蛋白濃度の差により物資交換が行われるとしているのです。毛細血管動脈枝から限外濾過された液体が、毛細血管静脈側での血漿のコロイド浸透圧(吸引力)により、水分が再び毛細血管中に戻ってくることが再吸収です。これは血漿のコロイドの実質浸透圧(吸引力)が実質限外濾過圧を上回っている状態です。
極論すれば、新陳代謝は栄養物と廃棄物の物質交換であり、先ず「拡散」によって、次に「半透膜」を介した「毛細血管→間質への限外濾過」と「間質→毛細血管への再吸収」によって行われているといえます。
 
毛細血管領域での血管の物質透過性には差があり、「最も高い透過性を持つのは肝臓の毛細血管であり、窓形成されている。広範囲に透過性が無いのは、中枢神経系「ZNS(D)/CNS(B)」の毛細血管である。皮膚・筋肉・その他の器官の透過性は、この2つの器官の間に位置する。透過性、つまり毛細血管の孔や窓の大きさは、各種の影響によっても変化する」(Pritshow)とされています。その中で透過性の変化は「毛細血管の適度な拡張による灌流血液の増加(充血)による毛細血管壁の開口の拡張」や「ホルモン性の影響」を挙げています。更に「様々な器官の異なる毛細血管透過性に相応して、それぞれの間質の蛋白含有にも大きな隔たりが見られる」とし、器官別の間質中の含有蛋白質量を例示して「肝臓では約4-6グラム%、脳では約0-1グラム%」などとしています。これらも状況や条件により変化することは当然ですが、再吸収されずに間質に残留した限外濾過量の10%を血管系に戻すことはリンパ管の責務とされていて、これがリンパ性負荷と呼ばれるものです。
まとめると、新陳代謝が行われる際に働く作用は
〇拡散
〇浸透・浸透圧(コロイド浸透・浸透圧)
〇濾過・限外濾過
〇再吸収
となります。
リンパ浮腫の臨床に関係するのは正にこれらの状況の変化と、生成されて間質に残った蛋白質の排出と言えます。リンパ浮腫は蛋白過多性の浮腫で、間質に蛋白質が過剰に残留している状態です。栄養障害などの蛋白欠乏性の浮腫とは性格を異にします。