複合的理学療法

圧迫療法


圧迫療法
 
圧迫療法は、スキンケア・運動療法と共に複合的理学療法の主たる構成要素であることが共通して記述されています。Wittlingerは「浮腫に対して徒手リンパドレナージュを行った後には、常に弾性包帯による圧迫を行うべきである」としています。特に弾性包帯を用いた圧迫は浮腫軽減期の治療には重要です。Földiは「リンパドレナージュは浮腫治療の1つの構成要素に過ぎず、これを単独で用いることは適切でない」とし、「(浮腫治療において)集中治療期のⅠ期(浮腫軽減期)では毎日施術し、毎回圧迫多重包帯を更新して圧迫する。特に進行性のリンパ浮腫状態では、しばしばこの時期に入院治療が行われる。第Ⅰ期の間に、続く第Ⅱ期(軽減された浮腫の維持期、長期間にわたる)でのセルフ処置の重要な要素である自己包帯を患者も学習する。自分自身で多重包帯が巻けるようになれば、患者は他に頼らない自覚を持つようになる」と、弾性包帯の重要性を述べています。
Pritschowに従えば、「ほぼ専用に作られた短伸性「Kruzzugbinden(D), short stretch(B)」または中伸性「Mittelzugbinden(D), middle stretch(B)」を浮腫軽減の為に使用する」とし、4つの浮腫を適応としています。
・リンパ浮腫「Lymphödem(D), lumphatic edema(B)」
・静脈鬱滞性浮腫「Phlebolymphostatischen Ödem(D), Phlebolymphostatic edema(B)」
・脂肪浮腫「Lipödem(D), lipedema(B)」
・外傷後/手術後の浮腫「Posttraumatisch(D). post traumatic(B)/ Postoperativen, post operative(B) Ödem」
これに用いる包帯は伸縮性布製「textilelastiche(D), textilelastic(B)」で、短伸性で伸長率が70%程度または、中伸性で伸長率70~140%までのものです。
弾力性に関係する力は、包帯・テープの復元力「Rückstellkraft(D), restoring force(B)」であり、組織に作用する力は、静止圧「Ruhedruck(D), resting pressure(B)」と動作圧「Arbeitsdruck(D)」です。
「復元力」は伸ばされたゴム線維が最初の状態に戻ろうとする力で、巻きつけられた部分に作用する力と言えます。伸ばす長さが長ければ復元力は強くかかることになります。
「静止圧」は巻きつけられた部分が「安静」つまり運動していない時に作用する包帯の圧力を指します。長伸性の包帯では強く引き伸ばして巻きつけるほど、復元力によって大きな静止圧が作用します。
「動作圧」は巻きつけられた部分と包帯との間に生じる圧力です。運動・動作時に筋肉の膨張・周径の増大が起こり、筋肉と包帯の間の組織を圧迫します。布製弾性包帯では膨張した筋肉に対してほとんど伸びることが無いので、その部位に高い動作圧を発生させます。長伸長の包帯では筋肉の膨張と一緒に伸びるため動作圧は低くなります。
 
圧迫の作用
Pritschowでは「(圧迫により)運動時にepifaszial(筋膜上)・subfaszial(筋膜下)の全ての組織領域において組織圧が上昇する。このためStarling均衡、つまり毛細血管領域の超濾過から再吸収の過程に影響する。超濾過では高められた組織圧に対抗するため水分とそこに溶解している物質の排出が減少することになり、結果としてリンパ性負荷は減少する」とし、Földiも「圧迫圧が組織圧を上昇させ、変化したStarling均衡は実質限外濾過圧を低下させ、限外濾過量を減少という改善が図られる」という機序が語られています。いずれにせよリンパ性負荷の減少が図られることになります。更に静脈管の内径を小さくし、不全な静脈弁の機能回復にも寄与し、筋・関節ポンプ作用の改善や支持機能の改善にもなります。更に言えば運動時の筋肉の膨張と弛緩によるマッサージ効果が期待できます。このため、圧迫療法と運動療法は組み合わされて行われます。


 


 
弾性包帯と効果
弾性包帯による圧迫の効果(Pritschowから)
・限外濾過の減少
・再吸収の促進
・血漿蛋白「Plasmaptoteinen(D)」に対する毛細血管の透過性「Permiabilität(D)」の減少
・局所的な静脈系中の血液量(静脈拡張)が減少し、血流速度は上昇する
・閉鎖不全だった静脈弁が閉鎖機能を回復する
・リンパ輸送量の増加
・筋・関節ポンプの改善
・支持作用の改善と機能の改善
・マッサージ効果
が挙げられます。
 
複合的理学療法での圧迫療法には圧迫多重包帯「Kompressionsbandage (D), compression bandaging(B)」と圧迫ストッキング・スリーブ「Kompressionsstrumpf(D), compression stocking(B)」があります。
どの本でも共通しているのは、リンパ浮腫や脂肪浮腫などで浮腫を軽減する段階「Entödematisierung(D), decongestion phase(B)」には圧迫多重包帯(バンテージ・テーピング)が効果的であるということです。その日により様々に変化する浮腫の状況に柔軟に対応できる点、圧の強さを加減できる点で優れています。入院治療の場合には管理もしやすく、患者も包帯に慣れる期間としても適しています。Pritschowでは「指または趾が冷たくなり動かなくなる。痒くなり始めたり、麻痺「einzuschlafen (D)」したり、痛む場合には包帯を外すことも知っておく必要がある」ことなど、入院期間は治療に対する理解や啓発の期間でもあることを述べています。
圧迫ストッキングやスリーブは、浮腫軽減が終了した後で行われる状態維持段階「Koservierung / Optimierung(D),maintenance phase(B)」で着用されるものです。
 
圧迫多重包帯は運動との組み合わせによってその効果を発揮できるとしていることも同じです。
「筋肉収縮に対して力の受け手「Wiederlager(D)」として働く。筋膜上・筋膜下に存在する管は圧迫され、移動可能「freie(D)」な間質液は他の領域へ排液される。つまり圧がかけられると移動可能な液体はより抵抗の少ない場所へ導かれるという原則に従う。
靭帯を有する器官「Bandhalteaparates(D)」とそれを取り巻く筋膜の緊張と弛緩を伴う運動は「関節ポンプ」といわれる。この領域を貫通して走行している血管およびリンパ管は緊張時に液が絞り出され、弛緩時には液で再び充満される。このため、包帯をする際には関節には確実に圧迫がかかるが、運動性は完全に制限されてしまう事が無いようにする必要がある」(Pritschowから)とその作用と注意点について述べられています。


 


 弾性包帯の補完
 
弾性包帯を補完するために包帯の下にクッションを当てること「Polsterung(D)」が必要です。
「クッションを当てることで、包帯の端が皮膚中のリンパ液の排液方向に対し横断的「quer(D)」に皮下の「subkutane(D)」リンパ管網まで圧迫することを防ぎ、骨の突起部に圧痕「Druckstellen(D)」が生じることを防ぐ。クッションは肢表面全体に作用する包帯の圧力を均等に配分することも目的とする」(Pritschowから)とされています。凹凸のある患肢をできるだけ円筒状に近づけることで、患肢にかかる圧を均等に配分し、皮膚や皮下組織にダメージを与えることを防ぐことを目的としています。これらは静的「ruhige(D)」クッションといわれ、綿ロール・スポンジロール・スポンジ板などがあります。
ある特定の結合組織増殖の柔軟化を目的としてマッサージ効果を持たせる動的・可動的「unruhige(D)」クッションがあります。「運動時に部分的な圧の上昇が起こることにより、増殖結合組織(リンパ鬱滞性線維症/lymphstatischen Fibrosen)の柔軟化をもたらすマッサージ効果を生じる。そのため小さく裁断したスポンジ小片などを筒状ガーゼの袋に入れて、弾性包帯の下の目的とする部位に当てる」(Pritschowから)というクッションです。
更に、「クッション材によるアレルギー反応を予防するため、クッション材を当てる前に木綿製の筒状包帯を(患)肢に着用する」としています。
まとめれば、クッションの目的は
・弾性包帯の端での絞扼を防ぐ
・弾性包帯の圧力を均等に配分する
・当該肢をケアし保護する
・結合組織増殖部を柔軟化させる
ということです。
 
 包帯のテクニック
「圧迫包帯を巻きつける際には、包帯を出来る限り均一に伸長させて行う」ことが求められます。常に適度な包帯の緊張度を保ち、緊張を持たせたまま肢に置いていく感覚です。「包帯の走行は望み通りの圧力がかかるだけでなく、たるみ「Taschenbildung(D)」や横方向の溝(シワ)「Querrillen(D)」を防がなければならない」ので、一方の手で包帯を引きながら、他方の手で巻きつけた包帯の表面をなでつけることも大切です。包帯の端がめくれて折れ返ってしまったり、しわが出来て包帯が二重になる部分が出来てしまうと、その部分には周囲よりも高い圧がかかってしまい締め付けることとなります。
運動の際には筋肉の起始と停止では周径の増加はほとんど無いが、筋腹では相当増大することにも注意が必要です。下肢の包帯では通常、膝下までは横臥位で包帯を巻き、それより上を巻く際には立った状態で巻かれます。
「包帯を巻いた後、下肢の場合は負荷をかけて、上肢の場合は力を入れて圧の状態をチェックしなければならないし、遠位から近位へ圧を漸減していくことも必要」(Pritschowから)としています。傷つくリスクを失くすため、包帯の固定は絆創膏または粘着テープで留められます。
包帯は患肢の付け根部分へ多くのリンパ液を排出させることと同じであるので、治療の開始に当たっては慎重に始めることは大切です。包帯を遠位部分に行って様子を見て、改めて患肢全体に包帯を行う方法がとられることもあります。
 


 


 弾性包帯の注意事項
 
圧迫包帯をする場合に気を付けるべき点がいくつかあります。
 ・患者の年齢に常に注意を払う。
圧迫包帯は血圧の上昇を招くので、高齢の患者に多く見られる高血圧に悪影響を及ぼさないように慎重になされる必要があります。「(圧迫包帯は)下肢にある血液が体幹へ移動し血圧の上昇をもたらすことがある。同時に心臓に対する前負荷「Vorlast(D)」が増加し、充血「Blutandrang(D)」が顕著に増大する」(Pritschowから)と述べられています。
 
・圧迫は運動と共にすることでその効果を発揮するため、動きを考慮に入れる。
「リンパ浮腫の患肢に変形性膝関節症「Gonarthrose(D)」、変形性股関節症「Coxarthrose(D)」などの整形外科的「orthopädische(D)」運動障害などが併発して見られる場合、包帯はそれを考慮にいれて圧迫が選択されなければならない。」圧迫包帯により苦痛を非常に強く感じる患者に協力はほとんど望めない
 
・圧迫包帯の絶対禁忌は動脈塞栓症「Arterieller Verschluss(D)」です。
 
・圧迫の強さに常に注意を払う。
「圧迫によって浮腫液が過多に移動すると、患肢の付け根部分に鬱滞をもたらし、しばしば結合組織増殖が生じる」とされます。そのため、過多にならない程度のリンパ性前負荷を送り込むように注意を要します。
 
・「リンパ浮腫の組織中に小さな脂肪小葉が触診される場合には、多数の小さなクッション片を包帯に巻き込むことにより機械的マッサージ効果を強化する 」として、動的・可動性クッションを当てることが指示されています。
 
・血流の確認
「包帯を行った患肢の血流状態を確実に把握するため、脈の比較を行わなければならない。つまり、上肢リンパ浮腫では橈骨動脈拍動「Radialis-Plus(D)」を相互に比較し、下肢リンパ浮腫では足背動脈拍動「Plus der Arteriae dorsalis pedum(D)」を相互に比較する」ことが大切です。また、圧迫により発赤した指先を押してみることで血流を確認することもあります。
 
・「皮膚のシワ状のクボミが深くなっている時、圧迫包帯がこのヒダの中へ落ち込み患肢に結紮「Abschnürung(D)」をもたらすことが絶対にあってはならない」として、前述のように包帯のシワが出来ないように丁寧に巻く必要が述べられています。
 
・患者への啓発
「指または趾が冷たくなり動かなくなる。痒くなり始めたり、麻痺「einzuschlafen(D)」したり、患肢が痛む時には、包帯を外すことを躊躇しない」ことを患者に知っておいてもらうようにすることも必要です。