HOME | リンパ浮腫 | 5)治療の基本と組み立て

 


リンパ浮腫は状態が良くなったからといって完全治癒したといえない病気です。生涯にわたってケアと管理を必要とします。しかし、浮腫の状態や時期によってケアと管理の重点は違ってきます。それぞれの治療のポイントを挙げてみます
 

集中的治療の時期
治療開始が早いほど効果が上がりやすい傾向にあります。
発症からの経過が長いほど、組織が増殖してしまったり、変性して戻りにくくなります。
リンパマッサージ、弾性包帯による圧迫は欠かせません。
 ≪⇒圧迫治療と注意へ≫
治療の初期は出来るだけ多い回数の治療(1か月目は週2回)をすることが望まれます。
家でのセルフマッサージ・セルフ包帯・スキンケア・生活上の注意は欠かせません。
《⇒10の注意へ》


 


集中治療の後の状態の維持
弾性圧迫ストッキング・スリーブの常時着用。
2~3か月に1回、状態のチェックを兼ねた通院治療。
旅行後や時折むくみが多くなった場合に臨時に治療。
 むくみが多い場合、夜間のセルフ包帯を活用。
≪⇒圧迫治療と注意へ≫
 家でのセルフマッサージ・スキンケア・生活上の注意は欠かせません
《⇒10の注意へ》 


 


 下腹部や胸部の手術でリンパ節切除や放射線治療をした場合、数か月後や数年後にむくみが発生する可能性はあります。必要以上に恐れても仕方ありませんが、今までよりは生活の中での注意が必要です。
 日常のケア・管理を心掛ける。
 むくみを増やさないことを心掛ける。
 軽めの圧の圧迫ストッキングを着用する。
 家でのセルフマッサージ・スキンケア・生活上の注意は欠かせません。
《⇒10の注意へ》
 

なぜドレナージュ?

 

リンパ浮腫は組織の間にある水分(組織液)に蛋白質が多く含まれている状態です。蛋白質は水と結びつこうとするため、組織間に蛋白質が多いと組織間に水分が留まり、むくみとなります。このような蛋白質を組織からリンパ管へ取り込むことがリンパ系の仕事といえます。水分と結びつこうとする蛋白質をリンパ管に取り込み減らすことで、組織間に留まる水分を減らす、イコールむくみを減らす作用です。蛋白質や脂肪といったリンパ管が取り込みを担当している物質を取り込む役割が手術などにより障害されていることがリンパ浮腫であり、その場合にリンパドレナージュは有効です。
栄養障害や腎臓病など、リンパ管・リンパ節の障害以外の理由でむくみが発生する場合ではリンパドレナージュは役に立ちません。むくみを発生させている元々の病気を治療する必要があります。
取り込んだ蛋白質が流れやすいようにリンパ管の環境を整えた上で、リンパ管の取り込み活動を活発にして、組織間の蛋白質と結びついている残留している水分を減らしていくことを目的としているのがリンパドレナージュであり、リンパ浮腫の治療です。
 

 


リンパの入り口
体の表面に近い部分のリンパ液は、両側の鎖骨の上のクボミ・腋の下・腿の付け根に集められ、そこから体の深部へ進み最終的に静脈へ入ってから心臓へ送り込まれるというルートをとります。いわば、これらの部位は体の深部へ向かう入口ともいえます。リンパ廓清は手術によってこれらの入り口が非常に狭められているイメージです。ですから、リンパ管・節のダメージが原因でむくんでいる場合は、リンパ液の通常の排出ルートをとることが出来ません。ダメージをうけている部位をう回した、通常とは違うルートを選ぶことになります。
この臨時のルートは通常のルートよりも流れがスムーズでないため、少しでも多く流れる環境を体に作ることが最初に必要となります。
乳がんなどで腕にむくみが出ている場合は手術と反対側の腋の下が目標です。
脚の場合は両側の腿の付け根がダメージを受けていると考え、むくんでいる側の腋の下を目標とします。両方の脚がむくんでいる場合は両側の腋の下が目標です。
リンパ液が流れやすい環境を作るのは、事故で渋滞が発生している道路の交通整理をすることと似ています。順序良く他の道へ誘導します。 
《*マッサージとむくみへ⇒》
 
圧迫療法
圧迫するというと「リンパ液を押し出す」イメージが強くなりがちですが、リンパ管には弁があってコントロールされているため押し出すことには限界があります。また、むくみはリンパ管の外にある水分ですので、一部分の圧迫をしても他の部分に移動するだけになりがちです。リンパ浮腫治療の圧迫療法は細胞からの出てくる物質の出てくる速さを抑える働きがあり、同時に筋肉の動きに合わせてドレナージュとしてのマッサージ作用をもたらします。この圧迫は同じ圧迫でも、静脈瘤などの場合に使用される圧迫とは種類が違っています。 
《*圧迫治療の注意「圧の種類」へ⇒》
また、マッサージ・ドレナージュは限られた時間の中で行われますが、圧迫はそれ以外の長時間にわたって作用し続けます。そのためリンパ浮腫の治療には圧迫療法は欠かせないのです。

 スキンケアはなぜ必要?

 

「むくみ」の原因である間質の水分は血液から発生したものです。血管を流れる血液は動脈によって酸素や栄養分を組織へ運び込み、静脈によって二酸化炭素や不要物を運び出します。動脈から運び込まれたものを100%とすると、90%が静脈によって運び出されますが、残りの10%はリンパ系によって運び出されなければなりません。リンパ浮腫はリンパ管の運び出す能力が低下しているため、運び込まれた量を充分に運びだすことが出来ないのです。そのため、積み残しとして「むくみ」が発生するのです。血液循環量を増やしてしまうと、それに応じて運び出さなければリンパ液の量も増やしてしまうことになります。リンパ浮腫の患者さんは通常でもリンパ管が運び出す量が少ないのに、更に負担が大きくなり、運び残しが増えてしまうのです。
そのためリンパ浮腫のケアでは、血液循環量を増やさない注意が必要になります。
具体的には、充血させない、つまり皮膚表面が赤くなることを防ぐことです。
・熱いお湯で長い時間の入浴をしない。サウナに入らない。
・強く揉みこむマッサージをしない。皮膚をこすらない。
・肌に合わない化粧品などでかぶれを作らない。
炎症によっても血管から出てくる水分量も増加します。捻挫や打撲などでは「腫れ」が起こります。膨らんだ「腫れ」はリンパ管が吸収しなければなりません。ちょっとしたケガでも表面は赤くなります。虫刺されも炎症です。あざが出来るなど、血管の外に出た細胞成分もリンパ管が吸収しなければなりません。ケガをしないことも重要なケアです。
更にケガは皮膚からのバイ菌の感染を引き起こします。感染すると炎症を増加させ、リンパ管が取り込まなければならない水分の運び残しも増加させます。「むくみ」のある場所は循環が悪くなっているのでバイ菌が留まりやすく、「蜂窩織炎」などの重篤な症状へ進みやすいといえます。ですからケガは大敵なのです。
他に疲労など、血管の壁の透過性を変化させることは同じようにリンパ管の負荷を増加させることになります。
スキンケアや一般的な注意事項はこれらを防ぐために大切といえます。



 
ケガをした後、炎症が収まってもケガの部位よりも末梢側にむくみが残ることがあります。ケガの部位のリンパ器官がダメージを受けてリンパ液を通過させにくくなっている状態です。すぐに腫れが引く場合もありますが、なかなか腫れが引かない時にはリンパドレナージュが効果的です。その場合、ケガをした部位のリンパ器官以外は正常なのでリンパ廓清などにより発生するリンパ浮腫よりも単純に考えることができます。
①腿の付け根や腋の下などリンパの集まってくる部分を最初にマッサージします。これは腫れている部位からの排液されてくるリンパ液を受け入れやすくするためで、リンパドレナージュの基本です。
②次にそこへ繋がるリンパ管をマッサージして排液を促して、ケガをした部位のすぐそばまでドレナージュを繰り返します。マッサージしてリンパ液を受け入れやすい状態にします。
③そうしたら傷の周囲を慎重に優しくドレナージュをします。開放性の傷の場合は周囲が火口のように盛り上がっていることがあり、その部位のリンパ液を傷口へ押し出すこともあります。ダメージを受けた部位は繊細に取り扱わないと、組織増殖が起こったり、瘢痕化してしまいます。刺激を与え過ぎないように優しく丁寧にマッサージを行う必要があります。
④その後、傷を迂回するように傷の周辺をドレナージュし、そうしてから傷より末梢側の腫れにドレナージュを行います。
一連のドレナージュでは、常にリンパ管の走行を常に想定・意識しながら行うことが大切です。硬くなった組織増殖や瘢痕組織、傷などが排液したい方向やリンパ管の走行を横断している場合はリンパの流れの障害になります。迂回して排液するルートへ誘導します。状態が良くなったからといって完全治癒したといえない病気です。生涯にわたってケアと管理を必要とします。しかし、浮腫の状態や時期によってケアと管理の重点は違ってきます。