アクアビクス・水中運動の環境


水中運動・アクアビクスなどは浮力を利用し、腰痛や関節症などの運動器疾患を持っている方には良い運動方法であるのは御存じの通りです。水の特性を理解して運動を行うと更に効果的です。このシリーズでは水の特性についてお話します。
浮力と抵抗:痩せて筋肉質の人と脂肪組織の多い太った人では比重が違う為、筋肉質の人は浮かびにくく太った人は浮きやすくなっています。また年齢とともに筋肉量や骨量が減少するので、高齢者は比較的比重が軽くなっています。また、肺の中に残存する空気量によっても浮力は違ってきます。肺の疾患をお持ちの方は肺の柔軟性が低いため、残留する空気量が多い場合もあり浮力があります。浮力は一時的な見かけ上の体重の軽減をもたらすので、背骨の構造や機能・下肢の関節に問題のある方、体重オーバーの方、妊婦にとっては非常な助けとなります。水の浮力は体のリラックスにも用いられ、肉体的だけでなく精神的にも緊張緩和に役立ちます。また浮力に逆らって運動することで運動抵抗となり、筋力強化にも役立っています。水自体も運動抵抗として使われていて、速い運動はゆっくりの運動よりも大きな抵抗を受けます。同じく手の平を広げて水をかく場合と、拳を握ったまま水をかく場合でも受ける抵抗が違って来ますし、上半身を水上に出して運動した場合と首から下が全部水中に入っている場合とでも抵抗の度合いは違います。運動の速さや抵抗面の大きさを変化させて、目的に合った無理のない強化をすることが大切であり、その様な水の特性を理解して運動することも重要です。
  

水中運動では水圧により体が影響を受けます。もちろん水深などで変わってきますが、水圧のために体の周径は減少します。胸の部分で 1 3 ㎝程、腹部で 2.5 6cm 程とも言われています。末梢の静脈は水圧により圧迫されるので血液は心臓へ多く戻され、心臓と肺の負荷が増えることになります。このため心臓は輸送量を増やすために活動を増すので、心臓に問題のある人には注意が必要となります。特に温水では血管は更に拡張しようとし、暖かいプールから出た時に血圧の下降が急激に起こり、倒れることもあるので気を付けなければなりません。リンパの流れが滞ってむくみがある場合には、水圧はこの滞りを解消するのに有効です。また水中運動を加えることで、静脈血が心臓に戻る作用を強化する事も出来ます。水圧は体の表面に近い部分にある静脈だけでなく、深い部分を走る静脈にも作用し、循環を促進し新陳代謝も活発にします。横隔膜にも影響して呼吸を促進します。水圧は空気を吐き出す呼気を手助けし、吸い込もうとする吸気に対しては抵抗として作用します。そのため水中運動を加えることで呼吸を補助する筋肉群が強化されるのです。
 

周囲の温度環境の変化に対応して、人は脳や皮膚の温度センサーにより体温を一定に保とうと反応します。周囲の環境温度が上昇し体温も上昇すると、陸上では汗をかいてその蒸発によって体を冷やすことが出来ます。水中ではこの発汗と蒸発によるクールダウンが行われないので、皮膚での血液循環を多くして対流によって熱を放出しようとします。反対に周囲の環境温度が低ければ、体は熱を逃がすまいとして皮膚での血液循環を低く抑え、熱の喪失を押さえようとします。
環境温度が人体より高い場合は、体の深部の温度と皮膚表面の温度の差はほとんどありませんが、低い場合は末梢の部分と体の深部(芯)の部分には大きな温度差が出来ます。 ですから、温水中では新陳代謝とエネルギー交換が高められ、心拍数は増加し、結合組織と筋肉の柔軟性が高められるなどの作用があります。低水温では毛嚢腺の収縮と筋肉の緊張性の増加が起こり、体温を逃がさないために皮膚の血液循環の減少が起こります。体温の低下を防ぐためには運動を活発に行う事で熱産生を増加させる必要があります。この運動による体温調節が十分でない場合には震えが起きます。震えは筋肉の収縮増加をもたらし熱を産生しますが、一方で皮膚の血液循環も増加させるので、熱の放出も増加してしまう効率の悪い温度調節法でもあります。水中運動を行う場合、特に心臓に問題を抱える方や腺機能亢進症の方の場合には、水温にも注意を払う必要があります。
 

水中運動・アクアビクスを行う利点には、以前に書いた運動器の筋肉増強や関節の負担軽減などの他、水温による皮膚刺激が挙げられます。皮膚には環境の変化を感知するセンサー(受容器)があり、体全体に分布しています。様々な環境の変化を刺激としてセンサーが感知し、神経系を通じて脳に変化を伝えます。脳はこの変化に対応するよう体の各器官に指令を出し、体の恒常性を維持(一定の状態に)しようとします。水中運動とセンサーに関連していえば、皮膚が水に濡れ表皮の上層部分がふやけると熱の伝導率は上昇するとされています。つまり温度変化が脳に伝わりやすくなるということです。快適な服を身に着けたり、空調設備により寒暖の差の少ない文化的な快適な生活を営んでいることで刺激されることが少なくなることや、化学的有害物質の影響を受けたりすることで、体の代謝が活性化されにくい状況も多くなっています。皮膚が受ける状況変化や温度刺激に対する体の反応は、新たな刺激により改善され、そのことで広い意味での長期的な体の恒常性の維持・改善に役立つものと見ることが出来ます。つまり、水中運動をする場合に体が繰り返し受ける水の温度刺激は、温度調節機能の訓練の一つとも言うことが出来るのです。
 


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