水中運動・アクアトレーニング 1



ドイツでは温泉(バーデン・Baden、Badにはプール・お風呂という意味もあります)での療養が一般化しています。有名なバーデンバーデンは温泉療養と避暑を兼ねた観光地でもあります。その他、温泉(Baden)と名の付く地名や駅名も数多く見られます。そこでは温泉水のプール・サウナ施設(クーアハウス・Kurhaus)を中心として、病院やサナトリウム・薬局・マッサージ治療院・長期滞在者のための宿泊施設が集まっていて、保険を利用しての治療が出来るようになっています。
日本でもプールでの運動は盛んに行われ、実際に運動をされている方もたくさんいらっしゃいます。
ドイツの「Wassergymnastik」という本を参考に水中運動の細部を解説します。



高齢者には老化現象のため様々な運動器や心臓循環系の問題が発生します。水中運動を始める前に医師の診察をうけたり、危険性のある事柄について知っておく必要があります。
特に水中運動は陸上での運動より血液循環系に負荷がかかることです。水は心臓方向へ血液移動させるため血管に圧の増強を促します。そのため心筋に対しての負荷上昇と必要酸素の増加。冠状動脈をもたらします。血管の硬化症の人の場合には、心筋に酸素が充分に供給されにくいという併発症が起こります。
高血圧症も同様です:定期的な運動は長期的に見て確かに血圧の低下をもたらしますが、実際には人が水につかると先ず血圧が上昇します。運動の開始時には運動プログラム量を正確に定めておかなくてはなりません。体は温度低下に反応し刺激反射によって末梢から体の中心方向へ血液を送り出し、同時に心拍数が下がります。βブロッカーなどの心拍数を下げる薬を服用されている方は医師の指示を仰ぐ必要があります。年齢に応じて肺胞と肺組織の弾力性は低下し、それにより呼吸が浅くなるためです。ですが、運動によって呼吸の補助筋の強化は肺活量を長期に亘って改善する効果があります。


人体には体温を調節するための温度センサーがあり、いくつかの温度センサーは間脳に存在する温度調節中枢に見られ、脳のこの部分を通る血液の温度が体の中核部の温度として計測されます。皮膚にある温冷郭覚センサーは求心性の経路を経由して温度調節中枢(視床)へ伝達され、温度調節中枢からは促進または抑制反射が心臓及び血液循環器に送られ環境条件に適合するようにされます。
皮膚の平均温度を下回る環境温度の時には、体は熱を奪われないように血液の流れは抑えられ、皮膚表面で行われる血管による熱の伝導は対流を通して体表面からゆっくりと放出されます。
逆に環境温度が皮膚の平均温度よりも高い場合、可能な限り多くの血液を流し、熱を皮膚表面で放出するために、皮膚での血液流動を高めるため血管が最大に拡張します。水中では皮膚表面から汗の蒸発による体温低下が望めないため、温水ではこの血流の上昇で体温を調節しようとします。
つまり、 低温水では皮膚の血流は低下し、温水では皮膚の血流は著しく多くなります。
 
この反応のために、温泉などの温水中で起きる現象は以下のようになるとされています。
○新陳代謝とエネルギー交換が高められる
○組織におけるヘモグロビンによる酸素放出が増加する
○酵素活性を刺激する
○心拍数を増加させる
○機能低下した腺の機能向上とホルモン生成増加の抑制(甲状腺機能亢進症を調整する)
○結合組織と筋肉の柔軟性を増加させる
○筋トーヌスを低くし、交感神経系のトーヌスは低くなる
○胃や腸の消化を正常化する
 
低水温では異なるメカニズムが働きます。
毛嚢腺(立毛・鳥肌)の収縮と骨格筋の静的トーヌスの上昇を生じます。筋肉活動時に分解された栄養物質を熱に交換するため活発な運動が必要となります。。この調節工程が不十分ならば“震え”が生じます。残念ながら震えている間は皮膚の血流は増加し、それにより周囲への熱の放出も増加してしまうという効率の悪い温度調節時の対処法となってしまいます。
もう1つの温度対処法は脂肪組織で行われる代謝の増加による熱産生です。
また、長時間、絶え間なく筋肉を動かすと、摩擦と筋肉での代謝によって外部に運び出さなければならない多くの熱が生じますが、水中では皮膚からの汗の蒸発による冷却が不可能なため、対流でしか行う事が出来ません。血流量が十分でないと血流に差異が生じ、体の一部での血流が多少とも強化されます。ある1つの皮膚領域で血液灌流が増加すると、その下にある筋肉の血流は低下することになります。皮膚・内臓器・筋肉は互いに関連し合っているということです。
これら温度刺激に対する体の反応に関して体格と体表面は非常に重要な要素であり、背の高い細身の人は体の体積に比較して大きな表面積を持っている為、小さく太った人よりも温度差に対して著しく反応するとされています。温水では体積の割に比較的大きな表面積を有しているため、四肢(手と足)ではそのことが有利に働くとされています。
このような温度調節は以下の要素によって決定されます。
○皮下脂肪の厚さ
○体の体積の表面積に対する比率
○栄養摂取の状態
○運動器官の機能の様子
○血液循環の状況
○皮膚の状態
アクアトレーニングでは水温という環境によって体にどのような違いが生まれるかを理解しておく必要があります。



皮膚にある神経系のセンサーは水温に対する重要な受容器であり、その意味で皮膚は温度調節において大きな役割を担っています。それ以外にも皮膚は免疫作用・栄養の貯蔵や血液配分の調節を決定するための重要な器官でもあり、人体と外界との間の刺激の仲介役とも言えます。皮膚が濡れ、表皮最上層部がふやけると熱伝導率は上がります。食餌からの栄養物質の欠乏、不適切な被服による温度刺激の低下、有害化学物質の作用などといった文化的影響によっても、皮膚の透過性や代謝の障害が起こる可能性があります。水中では表皮層のPH値が変化し、常に皮膚切片が剥離し、痒みの刺激を伴って皮膚の亀裂をもたらし易くまります。
そのため皮膚が敏感な場合は水中での滞在時間は短縮され、適切なスキンケアに重点を置くべきといえます。
塩素処理水は目・耳・口の粘膜領域に発赤や掻痒刺激を誘発することがある上、水表面部での塩素濃度はしばしば水中部のものよりも高いので、皮膚が敏感な人は首まで水につからずに水位の低いプールで行うことが望ましいといえます。 



腎臓の最も重要な働きは液性部分、電解質、酸-塩基平衡の調整です。水中で身体の血液循環が増加することで腎臓にもより多くの血液が流れ、それにより尿意をもたらす腎臓の活動(濾過)が活発になります。この濾過の増大によって、カリウム・ナトリウム・マグネシウムなど様々なミネラルや電解質が多く分離されます。ミネラルはスムーズな筋肉収縮に使われ、心臓の活動にとっても重要なため、これらミネラルのより多くの分離は心臓疾患の患者に対する危険もはらんでいます。更に心臓疾患の患者にとって危険なことには、血液の水分喪失により血栓症のリスクが高まることです。水中運動を行う前に多めの水分を摂取することで、このような危険性をある程度低下させることが可能です。
心筋梗塞後など心臓の循環系疾を有する場合、水圧や高すぎる水温の場合に問題が生ずることがあります。
体温低下は下腹部に刺激を生じさせることがあります。この部分が敏感な人は運動時間を短くし、事前に温かいシャワーで温めるか、防寒こと性の水着やスーツの着用という対策をとります。
食事の直後では、循環血液は消化器官に偏ります。この時間帯に身体活動によって筋肉運動が増加すると多くの血液が身体に必要とされるので、脳への血液供給不足とそのための虚脱になる可能性があり、水中ではこの状態は特に危険です。 



水中運動はどのような人にも対応する運動形態といえ、様々なトラブルを抱えた方に対して特に有利です。そのメカニズムと注意するべき理由を状況別に取り上げます。



水の浮力は脊椎と椎間板への負荷を特に軽減する作用があります。椎間板にかかる重量を軽くすることで、陸上での時より姿勢を保持する際の筋肉支持作業は軽減され、筋肉は力を抜くことができます。椎間板の障害は誤った負荷・過負荷など過度の機械的要求によるものと、片側への負荷・運動不足といった椎間板の局所的な代謝障害によって多く発生します。すると、椎間板は脊椎の間にあってのクッション機能を果たせなくなります。
椎間板はその中心に髄核を持つ線維状の軟骨で、圧力を和らげる作用があります。体の他の組織と異なり、椎間板は血管を持たないため血液循環から栄養を受けられず、栄養補給はもっぱら髄液から拡散という作用を通じて行われます。椎間板は日中には水分が失われるため晩には人間は背が縮み、夜間は水分を充分に吸収して回復するとされています。
最大限の栄養補給をするためには椎間板・脊椎の運動を行うことが大切です。規則的で変化する運動は、椎間板と脊髄の間での新陳代謝と拡散作用を保証します。
椎間板に重大な障害のある人には、仰向けまたは大きな浮力が得られる深い水位での運動が特に推奨され、そうすることで椎間板の緊張緩和が出来ます。運動によってこの変化する負荷は理想的になり、脊柱を支持している筋肉の強化が行われます。



水の浮力による負荷軽減によって、関節は非常に楽に動かすことが出来ます。負荷がかかった状況での痛みと、そのために生じる運動制限は著しく減少されます。
水は上方への動きを補助し、下方へ動く際には着地の衝撃を緩和します。そのため膝関節症の場合、地上であれば痛みが生じたり、不可能であった走行や跳躍が水中では可能となるのです。また、傷害を受けた後はしばしば組織や関節に浮腫が発生しますが、浮腫があることで浮力により圧の負荷は減少します。
関節に障害のある場合、基本的に運動はゆっくりとコントロールされて行われます。水の抵抗により素早い運動過程には自然と抑制がかかり、突発的で制御できない動きは出現しません。関節はゆっくりと負荷がかけられ、筋肉には比較的長く負荷がかけられます。関節の障害の際には庇い姿勢やそれによる筋肉の萎縮を生じるため、この筋力強化は非常に重要といえます。関節を安定させることを目的としたトレーニングをすることで、関節はリラックスし、負荷をかけることが可能となるのです。
水中で体に作用する様々な力は、単に個々の筋肉を単独にトレーニングするだけでなく、筋肉同士や筋肉内の調整という筋肉全体の連携にもプラスに作用します。このような視点がリハビリテーションの際に重要です。そのために同時に血液循環系のトレーニングを行うことも大切です。筋力的トレーニングと持久的トレーニングのコンビネーションは、多くのスポーツマンにとって即効性ある回復を意味していますし、地上でのトレーニングより耐負荷性が向上することは、負傷者にやる気を起こさせることに繋がります。
力強さだけでなく可動性もトレーニングされ、水の浮力によって動作の範囲が広がり、温水の中では筋肉は楽に伸ばすことができ、筋トーヌスは低下されます。